ランキングにおける「天井桟敷の人々」問題

鋼の錬金術師」や「ちはやふる」レベルの作品を読みたいと思って、マンガのランキング本を読んでいるのですが、あれくらいのレベルの作品はそう多くありません。100作品あたって二三あればいいかなというくらいですが、あれくらいの作品にあたるには、まず絶対数が少ないという問題もあります。

こちらは「寄生獣」「ぼくの地球を守って」「北斗の拳」「動物のお医者さん」などのマンガ史上に刻まれた数々の傑作と同程度の水準を要求するわけですから、そもそもが現在進行形のマンガにとっては不利なのはやむを得ないところです。

ランキング本の上位作品を読んでも、好みとかそうでないとかを除外しても、ストーリー構成や作画技法的にも水準に達していないだろうと言う作品が結構あるのですが、そうであれば、「傑作は稀だから傑作なのだ」という当たり前の話で終わるのですが、こうしたランキング本でも拾いきれていない傑作もかなりあります。

たとえば田村由美の「猫mix幻奇譚とらじ」や小川彌生の「キス&ネバークライ」とか。一方で、作品の質云々以前に、ランキングの趣旨から言えば入るべきでない作品もランキングに入ることがあって、「このマンガがすごい!2014」で言えば、「ときめきトゥナイト」の派生作品の「真壁君の事情」や、このマンガがすごい!2015」で入っていた「ベルサイユのばら」(外伝となる続刊が40年ぶりに刊行されたのです)は、かつての読者の「うわー、懐かしい」というノイズが干渉した結果でしょう。

ランキングにはこの種のノイズが入り込むことは避けがたくて、集合知なればこその偏りが生じてしまいがちです。

映画のオールタイムベストのランキングではいつもいつも「天井桟敷の人々」が一位で、名声それ自体によって評価が拡大再生産される、作品の評価ではなく何か別の要因で、東日本大震災のような大きな事件があったり、作品評価とは別に「この作品を好きな私が好き」問題によってファッションアイテムとして評価が捻じ曲げられたりして、ランキングにはランキングの問題があります。

「このマンガがすごい2015」は特にひどくて、あれは作品ガイドブックとしてはもう使えません。

「この作品を好きな私が好き」問題で私が特に過大評価を受けていると思う作家はヤマシタトモコさんです。

東村アキコさんもそういう消費のされ方をしていますが、あの人の場合は作品の質そのものは担保されています。ただ、2015版でランキングに入るならば「東京タラレバ娘」ではなく「メロポンだし!」の方がはるかに程度がいいです。

中村光さんもそうかも知れませんね。

一方で出す作品すべてが傑作と言う評価はされてるけどもっと過大評価されてもいいだろうという作家もいて森本梢子さんは、今、盆と正月が一緒に来ている状態ですね。

森本さんは1985年のデビューですからもう30年選手なのですが、いくえみ綾と並んで、少女マンガ界では異常に第一線に居続けている人です。作風は「純少女マンガ」のいくえみさんとは違って、コメディ路線ですね。

研修医なな子」「ごくせん」等の、一生に一つというくらいの代表作を既に持っている森本さんですが、ここにきて「デカワンコ」「アシガール」「高台家の人々」という傑作群を同時進行させている姿は全盛期の手塚治虫に匹敵します。

浦沢直樹さんくらいですかね、これくらい代表作を更新してゆく作家は他にはそうはいないですね。

浦沢さんも普通の一流作家なら「YAWARA!」ひとつで名刺になるんですよ。でもその後に、「MONSTER」の浦沢さんになって、「20世紀少年」の浦沢さんになった。

30年選手が現役で「高台家の人々」のような作品を描かれては、新人さんはなかなか難しいですね。